2023年8月21日、性犯罪防止を目的とした「日本版DBS(Disclosure and Barring Service)」の導入検討が報道された。DBSは英国で実施されている制度で、子どもと接する職場での就労希望者に対して、性犯罪歴の有無を確認するシステムである。このシステムでは、政府が性犯罪歴のデータベースを管理し、照会によって性犯罪歴が確認された場合、その人物は子どもと接する職種での就労が制限される。
制度の概要と課題
政府は、このDBSを活用する事業者に「適合マーク」を発行することで、その事業者の信頼性を示し、制度の普及を図ろうとしている。しかし、この取り組みには重大な問題点がある。まず、性犯罪の前歴の有無だけで、将来の犯罪を完全に予測することは不可能である。前歴のない人物が初めて性犯罪を犯す可能性も存在するし、逆に、過去に犯罪歴がある人物が更生している可能性もある。また、発覚していない犯罪者の存在も考慮する必要がある。
誤った安心感の危険性
DBSを導入することで生まれる「安全」という意識は、場合によって誤った安心感を生む危険性がある。適合マークの存在が、かえって警戒心を緩めさせる要因となる可能性も否定できない。性犯罪の防止には、単なる前歴確認以外にも、職場での適切な監督体制の構築や、従業員への定期的な研修、そして地域社会全体での見守り体制の確立など、多角的なアプローチが必要である。
冤罪のリスク
さらに深刻な問題として、冤罪の問題がある。特に痴漢や盗撮などの性犯罪では、誤認逮捕や誤った告発による冤罪が発生しやすい。社会には真の被害者が存在する一方で、誤って被害を訴える人々も存在する。そのような状況下で、強い主張や証言によって、無実の人物が犯罪者として扱われてしまうリスクは決して小さくない。DBSの導入により、このような冤罪被害者が不当にキャリアの選択肢を制限されることは、重大な人権侵害となる可能性がある。
さいごに
性犯罪から子どもを守ることは極めて重要な課題である。しかし、その手段として英国のDBSをそのまま導入することは、新たな社会問題を引き起こす可能性がある。日本の社会システムや法制度、文化的背景を十分に考慮した上で、より効果的で公平な防止策を検討していく必要がある。単に他国の制度を模倣するのではなく、日本の実情に即した独自の解決策を模索することが求められている。