私たちは毎日、自分の体と共に生活している。しかし、その仕組みや構造について、意外と正確に理解していないことは多い。特に性に関わる部位や機能は、学校教育でも家庭でも十分に説明されないことが多く、「何となく知っているけれど、正しい知識はない」という人も少なくない。大人になってから、自分の体を学び直す機会はほとんどないのが現状だ。
解剖学は健康を守るための基礎知識
解剖学というと医学の専門分野のように感じるかもしれないが、自分の健康を守るための基礎知識として、大人こそ知っておく価値がある。性器や関連臓器は「恥ずかしいもの」ではなく、心臓や胃と同じく体の大切な一部である。しかし現実には、正しい名称や位置、機能を知らずに過ごしている人が多い。
正しい名称を知ることの重要性
たとえば女性の場合、「膣」という言葉が外性器全体を指すと思い込んでいるケースは珍しくない。実際には外陰部(ヴァルヴァ)と膣は異なる部位であり、その中には大陰唇・小陰唇・陰核(クリトリス)・尿道口など複数の構造がある。男性についても、亀頭や陰茎、陰嚢、精巣、尿道といった部位がそれぞれ異なる役割を持っている。こうした正しい知識は、自分の体調や違和感を医師に伝える際にも非常に役立つ。
受診や対人関係に活かせる知識
大人になると、健康診断や婦人科・泌尿器科の受診、あるいはパートナーとの関係など、性や生殖に関する場面は確実に増えてくる。そのとき、自分の体の部位や機能を正しく理解していれば、より的確に相談や意思表示ができる。特に痛みや異常があったとき、どこにどんな症状があるのかを正確に伝えられることは、診断や治療のスピードにも関わる。
性の多様性を理解するために
解剖学的な知識は、性の多様性を理解するための助けにもなる。性器の形や大きさ、発達の程度は人によって異なり、必ずしも教科書通りではない。インターセックス(性分化疾患)といった、男女の特徴が混在する体を持つ人もいる。こうした多様性を知っていれば、無用なコンプレックスや偏見を持たずにすむ。
健康的で快適な性関係のために
快適で安全な性関係を築くうえでも、自分の体を知ることは欠かせない。陰核や陰茎の感覚、潤滑の仕組みなどを理解していれば、相手にとっても自分にとっても心地よい関係を作りやすくなる。避妊や性感染症予防といった実践的な行動にもつながり、性の話題に抵抗を感じる大人同士でも「知識」として共有すれば恥ずかしさは減っていく。
情報の選び方と学び直しのすすめ
インターネットには性に関する情報があふれているが、断片的で誤解を招くものも多く、正確さに欠けることが少なくない。だからこそ、信頼できる情報源から体系的に学び直すことが大切だ。専門書や医療機関、信頼できる性教育プログラムなど、確かな根拠に基づいたものを選ぶべきである。
さいごに
「知っているつもり」から「本当に理解している」へ。大人になった今だからこそ、自分の体を正確に知ることは、健康だけでなく自己肯定感や対人関係の質を高める大きな力になる。それは一生を通して、自分を守り、自分らしく生きるための知識である。